SFの金字塔「虐殺器官」をスプラッタホラーだと思って敬遠する人は損をしているので感想を書く[ネタバレあり]


「虐殺器官」とは、SFやミステリの最高傑作のひとつとして挙げられることの多い、夭折の天才「伊藤計劃(いとうけいかく)」のデビュー作です。

初版は2007年6月。もう5年も経ちますが、いまだに平積みしている書店も多いのでロングセラーなんでしょうね。

非常に評価の高い作品ですが、映像化されていないことやグロテスクなタイトルのために読んだことがない方が多いのではと思います。

かくいう私もそのひとりで、タイトルからスプラッタ描写がウリの猟奇小説だと思い込み、ずっと敬遠していました。

しかし、あんまり評判がよいものですから、SF好きを自称する者として一度は読まねばなるまいと、ついに手に取ってみたわけです。

そして読了した結果が、このエントリのタイトル『SFの金字塔「虐殺器官」をスプラッタホラーだと思って敬遠する人は損をしている』となった次第。

いや、めっちゃ面白いんですわ。

ここで深い考察はしませんし、そんな力量もありません。

そういうのを求める方はあちこちに優れた書評が上がっているので、Google先生までお問い合わせください。

本稿は『「虐殺器官」って聞いたことはあるけど、なんとなく手が伸びないんだよね…。』という方の背中を押すために書くものであります。

多少のネタバレはありますが、初読の楽しみを奪うものではないと思うので安心してお付き合いいただきたく。

まずはamazonに載っているあらすじを引用しておきます。

9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化。

なんかトム・クランシーとかの翻訳小説みたいですね。この辺も読者を遠ざける原因かも。

それはともかく、以下に私の感想を大きく3つに分けて書いていきます。

  1. どこが面白いのか?
  2. スプラッタ描写はあるのか?
  3. なぜミステリの名作とされるのか?

どこが面白いのか?

いきなり核心です。

私が面白いと感じたのは以下の3点です。

  • 細部にこだわった緻密な近未来の社会描写
  • 同じく、ミリタリー描写
  • 映画や小説からの引用が多い、厨二的でおしゃれな会話や独白

工業用人工筋肉や拡張現実(オルタナ)、個人認証技術が極限に達した社会について、主人公の生活や行動を通して見ていくわけですが、これがリアルで面白い。

人工筋肉の生産方法には衝撃的な事実が隠されているのですが、それ以外は数十年、いや、もしかすると数年先には実現されていそうな世界が展開されており、想像力が刺激されます。

それらの技術を使った軍隊行動も当然ながら進化しており、人工筋肉で包まれた生体パラシュートや、化学的アプローチとカウンセリングを組み合わせた感情や感覚の遮断処理、SFではおなじみの光学迷彩など、独自の発想とお約束の設定を組み合わせつつ、実に緻密に描写しています。

このあたり、硬派なSFファンの心を掴んで離さない理由がわかりますね。

とはいっても、ほとんどが現実と地続きの技術を発展させた設定なので、SF初心者でもすんなり入れると思います。

一方、3つ目の「映画や小説からの引用の多さ」は人によっては鼻につくかもしれません。

まあ、元ネタがわからなくてもちゃんと楽しめるので、もしわからなくても気にせず読み流していいと思います。

スプラッタ描写はあるのか?

はじめに「スプラッタホラーではない」と書きましたが、グロ描写はそこそこあります。

必要以上に嫌悪感を煽る表現はしてないので、だいたいの人は受け入れられるかとは思いますが、耐性がまったくない人は止めておいた方がいいです。

映画で言うなら、プライベート・ライアンの冒頭で目を覆ってしまうタイプの人は読まない方がいいですね。

逆に、鬼畜大宴会やら人肉饅頭的なアレな映画が好きな人には物足りないと思うのでやっぱり止めたほうがいいです。

なぜミステリの名作とされるのか?

これは正直、よくわかりません。

トリックがあるわけでなく、真犯人が隠されているわけでもなく。

本作において提示される主な謎は2つです。

  • 虐殺器官とは何か?
  • 各地で虐殺を引き起こすジョン・ポールの動機は何か?

前者の謎に関しては、序盤で「言語とは人間が生存適応のために発達させた、内臓と同じような“器官”である」という趣旨の会話を主人公とヒロインが交わしているため、その時点でほとんど種明かしがされているようなものです。

後者の謎は意表を突かれたものの、「ジョン・ポールの動機を追う物語」として構成されていないため、どんでん返しのカタルシスはあまり感じられません。

「どんでん返しの驚き」という意味では主人公が最後に取った行動こそがそれなのですが、それは虚無的に価値が反転した行為に対する驚きであって、ミステリ的な種明かしのカタルシスとはちょっと異なります。

うーん、最近はオチが意外であればミステリって呼ばれるのかな?

ま、面白いからいいや。

そんなわけで「虐殺器官」はとても面白い小説なので、ぜひ一度読んでみるといいと思いますよ。

と布教活動でした。

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