「青い星まで飛んでいけ(小川一水)」の感想 初心者からSFファンまでしっかり楽しめる短編集


現代日本SFの名手、小川一水の手になる短編集。天冥の標シリーズで出会って以来、すっかり小川一水作品のファンになってしまい、Kindle化されている作品はほぼすべてを読んでいるのですが、その著作群の中でも出色でした。

5つの短編はボーイ・ミーツ・ガールな宇宙SFから、現代のニセ科学の風刺、ややファンタジーじみた一片に、骨太な本格SFまで多岐にわたっており、小川一水の芸の広さをとことん味わえます。初心者からコアなSFファンまで万遍なく楽しめる一冊でしたので、今後、誰かにSFを勧める機会があれば、まずこれを推そうと心に決めました。

というわけで、感想です。タイトルごとに書いていきます。

  • 都市彗星のサエ
  • グラスハートが割れないように
  • 静寂に満ちていく潮
  • 占職術師の希望
  • 守るべき肌
  • 青い星まで飛んでいけ

都市彗星のサエ

氷彗星の都市に生まれ育った少女の冒険譚。舞台はわずか直径2キロの氷彗星の地下に掘られた都市であり、主人公の少女はちょっとした事故でその地下にある緩衝林に迷い込みます。そこで出会った風変わりな少年は狭い都市彗星からの脱出を計画していて……という話。

無重力に近い低重力環境での暮らしや、氷の採掘を主産業とする彗星都市の描写がおもしろい。こうした描写は小難しくなりがちなのですが、少女の目線から描くことで軽やかな読み味に仕上がっています。小川一水作品に共通しますが、難しい世界観を軽く読ませてしまう手腕には毎度脱帽です。

グラスハートが割れないように

舞台は現代。「人の祈り」で育つという怪しげな健康食品「グラスハート」に翻弄される少年少女の物語。

「グラスハート」とはほぼ密閉されたガラス球に、新種の地衣類(コケみたいなもの)を入れただけという商品なのですが、これが肌身離さず持っているだけで育つという不思議さから一大ムーブメントを起こします。水も肥料もなく、日光にも当ててないのに育つなんて不思議!というわけ。ま、実は「熱で育つ地衣類」というしょうもないものなのですが。

「水からの伝言」やEM菌などのニセ科学への批判が込められているのは間違いないでしょうな。教科書に載せて欲しい1編です。

静寂に満ちていく潮

遥か未来。人体改造技術がごくごく当たり前になり、人類が不老不死のサイボーグと化した世界でのファーストコンタクトを描いた一作。食や病気の心配がなくなった人類はすっかり退廃しています。

異色なのは、ファーストコンタクトを果たした主人公が科学的にも、文化的にもなんら使命感を帯びておらず、ただただ自分の享楽のために人類史初のファーストコンタクトを私物化するところ。ついには「環境保全軍」なる組織に見つかってしまうのですが、彼らも彼らでせっかくの地球外知的生命体を「環境汚染物質の侵入」と捉えているという。ひどいファーストコンタクトもあったものですね。ロマンもへったくれもない。

占職術師の希望

現代が舞台。人の「天職」が見抜ける男が主人公。その特技を活かして間接的にテロ組織と戦う話。他の小川一水作品でESPが登場したことは一度もなかったと記憶しているので、珍しいなと思いました。

守るべき肌

人類が自らの精神をネットワークに転写し、コンピューター上の仮想世界で250億人が暮らす未来での話。肉体のない仮想世界ですので、もはや資源もお金も必要なく、人々はてんでに遊び暮らしています。そんな世界で不思議な少女に出会った主人公は、少女が主催する奇妙な戦争ゲームに参加して……という話。

こういう設定の作品は「やっぱり生身の人間が一番だ!」という結論に落ち着くことが多いように思うのですが、この作品ではその真逆。肉体・物質の束縛から人間が完全に解き放たれたとき、こんな価値観の転倒が起きるんだろうかと、不思議な読後感を味わえました。

青い星まで飛んでいけ

表題作。地球外知的生命体の探査を目的に作られたAI艦隊が主人公。設定の骨格は「みずは無間(六冬和生)」に似てますね。がっちりしっかりSFです。

主人公のAIは数々のファーストコンタクトを経て、すっかり地球外知的生命体との接触に及び腰になっています。不意打ちでレーザーを叩きつけられるなど、何度も死ぬ思いをしているそうで。にも関わらず、建造時に与えられた使命のために探査をやめるわけにもいかず、造物主である人類をやたらにdisりながら何万年にも渡る旅を続けているのです。社命に逆らえずしぶしぶ仕事をしているサラリーマンのような、愚痴っぽくて人間臭いAIになんだか親近感がわいてきます。

この作品で見逃せないのはやはりオーバーロードの登場でしょう。SFファン以外にはなんのこっちゃでしょうが、オーバーロードとは古典SFの名作「幼年期の終り(アーサー・C・クラーク)」に登場する超知性体です。「幼年期の終り」ではオーバーロードの圧倒的文明レベルにただただ平伏するばかりの人類でしたが、本作品では憎まれ口を返せる程度には対等な関係に近づいています。やったぜ人類! でもまあ、それでも大人と子ども以上の実力差なのですが。

って、こうして書いていて「幼年期の終わり」の内容をほとんど忘れてしまっていることに気が付きました。読んだのたぶん10年以上前だしな……。2012年に新訳版が出ているそうなので、再読してみようかと思った次第。

ちなみに、天冥の標シリーズの感想は以下で書いているのでひとつよろしくお願いします。(あ、7巻の感想書かなきゃ…)

「天冥の標(小川一水)」全巻 感想 | ネタバレあり

follow us in feedly

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です