大槻ケンヂの怪作小説「縫製人間ヌイグルマー」に不覚にも涙ぐまされた話(ネタバレあり)


「綿いっぱいの愛を怒りに代え! 布やぶれ! 綿もはみで! 体もげてさえ! 命をかけて守ってみせよう! ボタンの瞳にかけて、正義と君を!! そう、我が名は友情の戦士! 縫製人間……」

「ヌイグルマアアアアッ!!」

大槻ケンヂが小説を書いていたなんて本作を読むまで知りませんでした。ごめんなさい。筋肉少女帯のイメージしかございませんでした。完全にタイトルのインパクトで衝動買いしております。Kindleストアをなんとなく眺めていたら、目に飛び込んでしまったんですよ。

こういう買い方をすると後悔する確率が高いのですが、いやはやどうして、めちゃくちゃ面白い。私の心の琴線を8ビートで刻みまくりです。四方八方好き放題な道具立てに、等身大のおかしみと悲しみを目一杯詰め込んだカオスな一作。泣いたり笑ったり実に忙しい。この不思議な読書体験は「超老伝―カポエラをする人(中島らも)」以来です。

ちょっと脱線しますが、国民の99%以上が知らないであろう「超老伝」という作品を少し紹介しますと、カポエラというマイナー格闘技(実在)を操る老人が、異種格闘技の達人たちをバッタバッタとなぎ倒すお話です。基本的にアホバカでゲラゲラなのですが、なんだかペーソスにも満ちている不思議な作品です。うん、ひさびさに読み返したくなってきた。

それはともかく、本作「縫製人間ヌイグルマー」について。

冒頭に引いた主人公の名乗りからしておバカ臭が漂っているのはおわかりかと思います。たしかにその印象のとおりで、主人公の戦いぶりは特撮ヒーローとプロレスとカンフー映画を織り交ぜたようなバカバカしくて派手なもの。実に痛快で、スカッとしつつもお腹が痛くなります。映画でいえば「カンフーハッスル」や「少林サッカー」、「火山高」とかのあんなノリです。

しかし、本作の魅力はそれだけではありません。

あまりに多くの要素がつめ込まれていて何から紹介してよいのかわからなくなるのですが、とりあえず登場人物を箇条書きにしてみます。

  • 自星の滅亡により遥か地球まで漂着した綿状生命体。テディベアのパチモノに寄生し日本のある一家に買われ、プロレスやカンフー映画を見て地球の武術に精通する。騎士道精神あふれる武人。
  • 同じく綿状生命体。不幸な少年フィルに引き取られ、伯父に殺された彼の願いである「一人でも多くの人間を殺す」を引き継いで世界を牛耳る大企業の超能力傭兵団に志願する。
  • 小人症の大企業会長。「平等な不幸が人類を幸福にする」という信念の元、人類の赤ちゃん化を目論む
  • マッドサイエンティスト。飼い猫が殺された復讐のため、ドラムのリズムで死体をゾンビとして操る技を身につける。
  • 片腕のロリータ美女。少女時代に暴行された挙句、片腕を切り落とされるという悲惨な過去を持つ。さまざまな兵器に換装できる義手を武器に主人公たちの前に立ちはだかる。
  • 人造の赤ちゃんの体に大人の脳みそを移植した怪人。知能レベルは赤ちゃんレベルまで後退しており、その場のノリに流されやすい。小人症の会長をパパと慕う。
  • かつてクリスマスの日に母を殺したというトラウマを持つ大男。サンタの格好で人々に死というプレゼントを配る。
  • 超能力少年であったが、不調の際に仕方がなく使ったイカサマをテレビ中継で暴露され世間を恨む。折り曲げたスプーンをサイコキネシスで放ち、テレポートまでこなす強力なESP。
  • 元ムエタイ選手の片目の住職。ぬいぐるみを供養する縫製寺の和尚であり、主人公たちの心強い味方となる。ゾンビの首を膝蹴りでへし折ったり、首相撲で投げ飛ばしたりととにかく強い。
  • 鷹。アダ名などではなく、正真正銘鳥類の鷹であり、別に改造手術など施されていないただの鷹であると思われる。ペットショップから連れ出されて味方になるが、動機などは一切不明。
  • 大統領。一連の事件の黒幕にして、最強のサイボーグ。体内にジュークボックスを仕込んでおり、場面場面で最適のBGMを流しながら戦う。権力至上主義者であり、世界中の人々は何も考えず自分に従うべきだという信念を持っている。

ね、狂ってるでしょう? いや、他にも数人まともな人物が出るんですが、作品の雰囲気を端的に伝えるにはこいつらを紹介するのがいいのかな、と。

んで、そのまともな人間陣営の中に「ガマ安」という高校教師がいるのですが、この人の活躍シーンが実に泣けるのです。いや、正確にはガマ安率いる高円寺阿波踊りチームの一員であるテツがね、実にいい味を出しているんですよ。

テツは重度の障害者で、四肢が働かず電動車椅子を口で動かしている上に、言語障害もあってまともに言葉も話せません。そのテツが、高円寺阿波踊り大会を乗っ取ったゾンビの群れに向かって放つ台詞が痺れます。あ、言葉は発せられないので彼のうめき声を通訳できる“モヒカン”による言葉なのですが。

「“許さない。俺はこいつらの理不尽を、絶対に、認めない”」

“俺が全員ぶっ飛ばしてやる”

「“足がある。蹴り殺してやるんだ”」

「“口がある。噛み殺してやる”」

「“目がある”」

「“目がある。にらみ殺してやるんだ”」

「“先生、どいてくれ。あいつらをにらみ殺してやるんだ。どうにもならないことだってわかってる。でも、どうにもならないからこそ、その中で、できるだけのことをしてみるんだ。目しかろくに動かせないというのなら、にらみつけるしかないじゃないか」

うおおおおおおお! かっちょいい!! かっちょよすぎるぞテツ!! 思わず目頭が熱くなりました。

私のつたない引用で歪んだ伝わり方をするのは嫌なんでちょっと解説しますけど、この場面はですね、別に野島伸司的障害者マンセーなクソ演出ではありません。圧倒的に力が劣るものが、それでも気概を持って強者に立ち向かうという少年漫画ではよくある王道的テンプレ的パターンなのです。

王道なんてつまらない? いや、面白いから王道なんだ!!

このテツの勇気が引き金となり、徐々に反抗の狼煙が上がります。いや、このくだりの最後は敵がゾンビを操る手段がドラムのリズムであることに気が付き、音楽バトルに発展するというアホな流れなんですが、そのときもね、なんかいいんですよ。一番活躍するのがまるで売れないロックバンドで、マイノリティなめんなと、おれたちはいまここで生きてるんだと、どんな権力や暴力がやってきてもおれたちの居場所は渡さねえんだと、そんな筆者の魂の叫びが聞こえてくるようでありまして、作中屈指の名場面だと私は思いました。これぞロックだぜ!!

その他、面白いところは多数あるのですが、これを語り切るには全文引用する以外にありませんのでこの辺で筆を置こうかと思います。つーかね、この場面で折り返しなんですよ。これから先がまたボリューミィです。

まあ、万人に受ける作品ではありませんので無理にオススメは致しません。でも、この作品が好きな人とはおいしいお酒が飲めそうだなあ、なんて思いました。

縫製人間ヌイグルマー(大槻ケンヂ)

この感想を書いている最中にググってみたところ、今年の1月に中川翔子主演で映画化されている模様。いかにもB級で小説とはだいぶ違いそうだけど……ちょっと見てみたいなあ。

特撮×中川翔子「ヌイグルマーZ」 フルトレーラー

と思ってamazonを調べたのにCDしかない件。DVD化はもうちょっと先かしらん。

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