南極の氷床融解が限界点を越えてしまったらしいので海面上昇系SFを紹介する


気温変動のために、南極大陸の氷が溶けまくって限界点を突破してしまったそうで、今世紀末には最大82センチもの海面上昇が起こるらしいです。

南極の氷床融解「限界点、越えてしまった」 NASA、支え失った氷が浮いた状態(msn産経ニュース)

海面が82センチも上がったら日本沿岸もかなりの地域が海中に没してしまいそうです。Wikipediaによれば、東京23区だけでも江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区などにわたる150万人が住む地域が海抜ゼロメートル地帯だそうで、この辺は確実に沈んでしまうでしょう。湾岸の埋立地にタワーマンションを購入しちゃった人なんて涙目です。いや、さすがに今世紀末まで住むつもりはないか。

1m弱の海面上昇でどれだけの土地が沈んでしまうのか調べてみようと思い、Google先生に尋ねたところ、「Flood Maps」というシミュレーターがヒットしたんですが、NASAの発表が影響したのかずっと504でアクセスできません。うーん。残念。あとでまた試してみよう。

ええと、毎度毎度枕が長くてアレなんですが、そろそろタイトルの件をはじめようと思います。いや、まあ、茶化していい問題ではないのはわかってるんですよ。でも、海面上昇と聞いたら紹介したくてたまらない作品がありまして。

それがこちらです。

水域(椎名誠)

いつのころからか水に覆われた地球。忿怒奔流に翻弄され、広大な水平線を漂う青年ハル。美しいズーとのつかのまの愛の暮しは黒い男たちの襲撃で終焉し、絶望するハルは七本鰭の怪魚に勇気づけられるのだった。そして嵐に運ばれた新空間で出会ったのは―。椎名誠の贈物、水の国の不思議な愛と冒険の物語。

まさかの新品在庫なし。中古1円出品である。ショック。

この「水域」という作品は、「アド・バード」、「武装島田倉庫」と並んで椎名誠のSF三部作と呼ばれており、いずれも劣らぬ傑作です。

にも関わらず、知名度が非常に低い。そもそも椎名誠がSFを書いていたなんて知っている人が少なそう。年に1回か2回テレビに出てモンゴルとか砂漠とかを旅してる変なおじさんだと思われていそう。ぐぬぬ。

それはさておき作品のことを語りますと、「水域」は陸地のほとんどが海中に没し、文明が大きく後退した世界を舞台としたSF小説です。奇怪な生物が跋扈し、それらの描写が主題であるアド・バードや武装島田倉庫とはやや毛色が違い、海に沈んだ世界の美しさを称えるような描写が多かった印象が残っています。その不思議な雰囲気がね、実によいのですよ。

もっと詳しく紹介をしたいのですが、なにぶん読んだのが10年以上前なので誤ったことを書いてしまいそうで怖い。確実なのは主人公がサルベージ屋で、水没した過去文明の遺物をさらって生業としていること。なんだか不思議な少女がヒロインとして登場することでしょうか。

そんな曖昧な記憶でオススメすんなよという向きもあるかと思うのですが、とてもとてもよい作品であったという印象だけは間違いなく残っておりますのでそれは信じていただきたい。ついでにKindle化リクエストボタンを押すことにご協力をいただきたい。

書店で手に入れるのはどうも難しそうなかんじですので、すぐに読みたい方は最寄りの図書館へGo。なんやかんや椎名誠は人気作家であらさられる(あらせられた?)ので、案外置いてあるんじゃないかと推察します。

もうこれだけでほとんど満足してしまったんですが、1作しか紹介しないのではアレなので、あといくつか挙げてみましょう。

華竜の宮(上田 早夕里)

ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は“魚舟”と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす―。日本SF大賞受賞作、堂々文庫化。

外交官が主人公というちょっと変わったSFです。設定は申し分なくSFなんですが、ストーリーは政治劇的な大人の駆け引きが主体なので、「百年法(山田 宗樹)」が楽しめた人にはオススメ。脳みそに人格ありの補助AIを積んでいるのが当たり前だったり、人類滅亡が確定路線だったり、遺伝子改造があったりでバリバリのSF設定なんですが、人間模様に焦点が置かれているせいか不思議とハードSFな雰囲気は感じません。

深紅の碑文」という続編が出ているのですが、こっちはなぜかあまり好きになれなかった。登場人物に善人が多すぎたせいなのか、説明しすぎで想像の余地が少ないせいなのか。

むしろ「華竜の宮」の原型となった短編「魚舟・獣舟」の方が想像力が駆り立てられて好きでした。

老ヴォールの惑星(小川一水)

偵察機の墜落により、おれは惑星パラーザの海に着水した。だが、救援要請は徒労に終わる。陸地を持たず、夜が訪れない表面積8億平方キロの海原で、自らの位置を特定する術はなかったのだ--通信機の対話だけを頼りに、無人の海を生き抜いた男の生涯「漂った男」、ホット・ジュピターに暮らす特異な知性体の生態を描き、SFマガジン読者賞を受賞した表題作ほか、環境と主体の相克を描破した4篇を収録。著者初の作品集

表題作ではなく、上記のあらすじに紹介されている「漂った男」が陸地のない惑星に漂着してしまった男の奇妙な運命を描いています。その惑星を満たす海水は人間の生存に最適な組成と温度でできていて、救助が来ないまま何年も過ごすうちに星間戦争が起きたり英雄化されたりと、星新一のショートショートを彷彿とさせる短編でけっこう好み。

海面上昇じゃなくて、最初から海しかない惑星が舞台じゃないかって? こ、細けぇことは気にすんな!

日本沈没(小松左京)

日本列島の下で、何かが起こっている!? 深海潜水艇〃わだつみ〃の操艇者・小野寺俊夫は、地球物理学の権威・田所博士と日本海溝に潜り、異変を発見した。日本沈没を警告する田所博士の指示で、政府は〃D―1〃計画を立て、極秘に調査を開始した。――危機管理のあり方、世界の中の日本とは、そして日本人とは何か……さまざまな問題を喚起した空前のパニック小説!

言わずと知れた名作ですね。海面が上がったわけではなく、日本が沈んでいるわけですが。先に挙げた「華竜の宮」のはほぼ間違いなく「日本沈没」の影響を受けているでしょうな。

続編として「日本沈没 第二部」が刊行されているのですが未読。メディアミックスで漫画にもなっていた気がするけど、そちらも立ち読み&飛ばし読みでよく知らない。あかん。いつか読もう。

でも、小松左京作品だと「復活の日」が強烈に印象に残っているんですよね。中学生のころだったか、小松左京作品に触れるのはそれがはじめてだったんですけれども、核戦争後の荒廃した世界に生きる人々をリアリティあふれる筆致で描いておりまして、怖くて怖くてしかたがなかった記憶があります。そのせいか、いまだに「小松左京=怖い・暗い」という先入観がありましてなかなか食指が動きません。小松左京の面白系作品がもし存在するのであればトラウマを払拭したいのでぜひご紹介いただきたい。

日本以外全部沈没(筒井康隆)

地球規模の地殻変動で、日本を除くほとんどの陸地が海没してしまった。各国の大物政治家はあの手この手で領土をねだり、邦画出演を狙うハリウッドスターは必死で日本語を学ぶ。生き残りをかけた世界のセレブに媚びを売られ、すっかり舞い上がってしまった日本と日本人だが…。痛烈なアイロニーが我々の国家観を吹き飛ばす笑撃の表題作(登場人物解説付)ほか、新発掘短篇「黄金の家」も収録。

日本だけが沈むのであれば海面上昇ではありませんが、日本以外が沈んでいるのであればもうそれは海面上昇みたいなものでしょう。きっと。

いかにも筒井康隆らしい皮肉の効いたアホバカ小説です。さくっと読めるのでSFが苦手な方でも読めると思いますが、ご多分にもれずお下品要素が含まれていた気がするので万人にはオススメしがたい気がする。いや、これも10年以上前に読んだので記憶にイマイチ自信がないのですが。

余談ですが、最近円城塔の「Self-Reference ENGINE」を読みました。これが実に筒井康隆のスラップスティックを受け継いでいる感があって面白かったです。書評なんかを読むと「論理学の素養がないと理解できない」だとかなんとか高尚ぶっているものが散見されたので敬遠していたんですけれど、読んでみたら基本的にドタバタコメディでした。確かに深読みの余地が多分にある作品ではあるのですが、どうしてSFファンというのは好きな作品を難解に見せたがるのか。

いや、SFファンに限らない傾向かもしれません。文学界隈にしたって、田山花袋の「蒲団」なんて変態小説だし、夏目漱石の「吾輩は猫である」はギャグ小説に他なりません。ゲラゲラ笑いながら読めばよいものを、変にありがたがるもんだからみんな手が伸びなくなると思うんですよ。小説なんて所詮娯楽の一形態にすぎないのですから、しゃっちょこばらずに素直に楽しめばよいと思うのですけれどもね。

なんだかいつの間にか脱線していましたけれども、小説以外でも宮﨑駿のアニメ「未来少年コナン」だとか、ケビン・コスナー主演の映画「ウォーターワールド」だとか、水中に没した世界をテーマにしたフィクションは案外多い気がします。

「母なる海」とは言い古された表現ではありますが、海に対してなんともいえない憧憬を抱くのは人間の本能なのやもしれません。

ちなみに、海なし県埼玉で生まれ育った私は、いまだに海が見えただけで大はしゃぎいたしますです。

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