「やあ、白井君。今年の新卒採用の調子はどうかね?」
「あ、黒田部長。それがどうもいまいちな滑り出しで…」
「なんだと!去年の失敗を繰り返さないよう今年は求人広告予算を倍に増やしたんじゃないか」
「確かにエントリーは増えたんですが、説明会の予約率や出席率が下がって結局去年とほとんど一緒の状況なんです」
「それでは金をかけた意味がないじゃないか。原因は何なのだね?」
「やはり根本的な知名度不足だと思います。当社は企業向け取引しかしていませんし、学生には業務のイメージがわきづらいんですよ」
「対策は?」
「なるべくページを更新して情報を増やすようにしているんですが、増えたエントリーの事務処理に追われてしまい時間が取れなくて…」
昨年12月より2014年卒の新卒採用活動がスタートを切り、エントリー獲得に説明会の出席確保にと宴もたけなわな季節かと存じますが、全国の人事のみなさまにおかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
枕にした寸劇のような会話が実際にどこかの企業で行われているかは存じ上げかねるのですが、こういう失敗をしてしまう会社は少なくない気が致します。
去年は採用目標数が達成できなかったので、とりあえず予算をかけて露出を増やし、母集団を膨らませようという作戦ですね。まあ間違いとまでは言いませんが、効率のよいやり方ではありません。
露出を高めてエントリー数を増やしたとしても、決して選考過程に進んでくれる学生の増加には直結しないんです。
新卒向けの就職情報サイトのほとんどは、ワンクリックでエントリーできたり、検索結果画面から一度にたくさんの企業を選んでエントリーできる「一括エントリー」の機能を持っているため、媒体内で露出を増やすオプションを利用すると「とりあえず目についたからエントリーした」という志望動機が弱い学生で母集団が形成されがちです。
それでも母集団が増えたんだからいいじゃないかという意見もあるでしょうが、こうして増えたエントリーの事務処理で採用担当者が忙殺され、応募者のフォローがおざなりになったせいで歩留まりがさらに悪化し、母集団は増えたのに採用数は去年より少なかった…なんて泣くに泣けない事態も聞かない話ではありません。
この解決に必要な視点は2つです。
- なるべく志望動機の高い母集団を形成する
- 入社後のイメージがわく豊富な情報を提供し歩留まりを向上させる
求人媒体のオプションを利用するなら、学生の属性や嗜好で打ち分けできるダイレクトメール(セグメントメール、ターゲティングメールとも)や特集ページの活用などでしょう。しかし、こうしたオプションにはけっこうな費用がかかり、採用予算が少ない企業では難しいかと思います。
ここでやっとタイトルの話。
新卒採用のために「コンテンツSEO」という考え方を活かし、「公開社内報」という方法を試してみてはいかがかと。
「コンテンツSEO」とは、簡単にいうと「読んだ人の役に立つ質の高いページを作って、それを検索エンジン対策(SEO)にも活かそう」という最近のSEOの本流といえる考え方です。
新卒採用の現場でSEOという言葉をあまり聞いたことがないので、あまり人事にはなじみのない用語かと思うのですが、そんなに難しい話ではありません。簡単にいうと、「検索エンジンを通じてある情報を探している人に、マッチするWebページをなるべく検索結果の上位にして見つけやすいようにしてあげる工夫」のことをSEOといいます。
新卒採用に当てはめていうなら、「こんな仕事がしたいとGoogleで検索する学生に、ちょうどぴったりな就職先があるよと自社の採用情報を見つけてもらいやすくする工夫」といったところでしょうか。
以下、本論の目次です。
かなり長くなるので、忙しい方は関心のある項目だけお読みください。
- 社内報を活用すれば「コンテンツ制作」の手間は要らない
- 年を重ねるごとに新卒採用が有利になる!
- 役員、社員の「伝える力」が上がる(モチベーションも)
- 新卒向け就職情報サイトの利点と問題点
社内報を活用すれば「コンテンツ制作」の手間は要らない
SEOの業界ではよく「Contents is King(良質な記事こそ最強)」といわれます。小手先のテクニックなどより、中身の充実した記事がなによりも効果的だという意味です。
いまの検索エンジンはかなり進化していて、あらゆるテクニックを尽くした中身のないサイトよりも、閲覧者の役に立つ有用なコンテンツが充実したサイトの方が上位に来るようになっています。(サイト構造の致命的なミスさえなければ)
Webの瑣末な知識なんかより、必要とされるコンテンツを生み出す力が重要になっているんですね。
しかし、中身のあるコンテンツをいざ書こうとしてもそんな時間はなかなか取れませんし、外部のライターに頼むのもコストがかかります。
そこで活用していただきたいのが社内報です。多くの会社で作成しているであろう社内報をブログなどに切り替えて公開してしまえば、新たにコンテンツを作るコストは不要になります。すべてを公開するわけにはいきませんから、機密情報は社内限定にする配慮は必要ですが。
社内報に掲載される内容はまさに企業の生の情報ですので、学生からすれば垂涎です。社内報を公開することで、学生の求める情報が自然と発信できるというわけです。
社長ブログの先駆けであるamebaの藤田社長などは、こうした採用向けブランディング効果も理解して社員向けメッセージをブログで公開しているのだと思います。
年を重ねるごとに新卒採用が有利になる!
こうして社内報をWebに公開しはじめると、更新のたびにコンテンツが増えていきます。
これには2つの効果が見込めます。
1つは、情報の厚みが増して、学生の理解や安心感を高めやすくなり、マッチングしやすくなること。
もう1つは、検索エンジンにヒットするページが増えて、新卒学生の目に触れやすくなる点です。
これらは1年ごとにリセットされてしまう新卒向け求人媒体では期待できない効果です。
社長、役員、社員の「伝える力」が上がる
社内報というのは基本的に内向きの発表ですのでどうしても表現が不十分になりがちです。
会社という組織に属した仲間にだけ発信されるので、色々な暗黙知を前提としてしまい説明が不十分になってしまうことがしばしば発生するんですね。
私自身、転職歴が2回あるわけですが、その組織ならではの用語や常識を理解するのにはなかなか苦労をしました。
しかし、社外に公表するとなると暗黙知を前提とした書き方はできません。
誰が読んでも理解しやすく、誤解を受けない発信をするよう心がけるので、自然に伝える力が増していきます。
また、社内報などですと滅多に反響(PVや「いいね!」など)が計測されませんが、ブログで公開すればそうした定量的な反応を計りやすくなります。
そうなれば、記事を書く側も定量的に自分の記事の手応えを感じることができ、より優れた発信をするためのモチベーションが増していくでしょう。
…ぜんぜん反響がなくて凹む人や、アクセス乞食化する人も発生するでしょうけれど、そのへんはご愛嬌ということで。
新卒向け就職情報サイトの利点と問題点
かつて新卒求人媒体の営業をやっていた人間がいうのもアレなのですけれども、現在の日本における新卒向け就職情報サイトのあり方は利点もありますが、同時に問題点も少なくないと感じています。
ひとつひとつ書き出すとキリがありませんので、まず利点から箇条書きにしますとこんなかんじです。
- 多量の求人情報が集まっているので効率よく新卒募集をしている企業が探せる
- ほぼ共通のフォーマットで情報が整理されているので比較しやすい
- 新卒学生がたくさん集まるので、企業も手軽に新卒採用に乗り出しやすい
一方で問題点を書くとこんなかんじ。
- 多額の広告費をかけた企業ばかりが目立ってしまう
- 「広告」なので企業の都合の悪い情報は掲載されにくい
- 志望が弱くても手軽にエントリーされてしまう
- 毎年情報がリセットされてしまい、情報の蓄積がない(1社1社の情報が薄い)
一長一短ではあるものの、現状はあまりにも新卒求人市場において媒体社の存在感が大きすぎ、どうにもバランスが悪い気がしています。
うーん、書きたいことありすぎて1記事ではまとめきれそうにありません。
より具体的に新卒採用に活かせるSEOの手法であるだとか、新卒採用市場に転がっていそうなビジネスチャンスだとか、思うところはまだまだあるのですけれども。「新卒採用 SEO」などで検索してみるとノウハウ提供をしているサイトが皆無であり、いまだにポータル頼みのレガシーな業界なんだなあと愕然とできちゃったりするわけで。
ともあれ、今日はこんなところで。また機会を見つけて書いてみます。
ご質問、ご意見などございましたらコメントなりTwitterなりでお気軽にお寄せください。