タヌキそばは関東、関西でなぜ名前が違うのか


いつも朝食は食べないんですけれど、今朝はどうにも小腹が空きまして、オフィス近くの立食いそば屋に立ち寄ったのです。

かけそばではどうにも味気ないし、かき揚げそばではいかにも重い。というわけで、間を取ってタヌキそばを頼んだんですな。この店、入店直後に品が出てくるあたり、きっと阿波狸などの力を狩りて千里眼の秘術でも身につけているのでおりましょう。

や、店外の券売機でボタンを押したら厨房にオーダーが飛ぶってな仕組みなんでしょうけれどもね。まったく現代の技術というのは仙術妖術と違いありません。充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かないとはよくいったもので。

そんな世の不思議に感じ入りながらも、ずずいっとそばをたぐっておりますっていうと、疑問がひとつ、こう、ずずいっと脳裏をよぎります。

「タヌキそばって、どうしてタヌキっていうんだろうナァ」

ずいずいとすするうちに、さきほど注文した際の心境が蘇ります。天ぷらとかけそばの間がタヌキそば。タヌキそばに乗っているのは揚げ玉、口さがない人によれば天カスです。天ぷらの衣だけ。つまりは、タネのない天ぷら。タネ抜きの天ぷらなんでございますよ。

すわ、タヌキそばとは「タネ抜きの天ぷらそば」の略なのではないか。

天啓です。天啓が下りて参った気分です。これはきっと世の人の誰も気がついたことのない秘密であろうなあと、思わずツイートなどしてしまった次第で。

「タヌキそばのは」と思わず入力を誤っているのがかわいらしいものです。興奮に打ち震えていたんですな。これはぜひブログのネタにせねばならぬと勢い込んでもおりました。

さて、昨今では知財権なるものがうるさく、特許だパテントだと殺伐とした世情でございます。サムスンとアップルあたりは国際市場を舞台に泥沼を通り越してオイルレスリングを興行していると聞き及びます。私もこの新奇な自説を公開するにあたりまして、万一先駆者などおり、巨額の損害賠償訴訟など起こされてはたまらぬと念のためあらかじめGoogle先生にお伺いを立てた次第で。

たぬき (麺類) – Wikipedia

天ぷらの「タネ」を入れない(タネを抜いた)揚げ物の「タネヌキ」であり、そば屋で「天ぬき」を頼むと天ぷらそばのそば抜きが出てくるのと同様で、「タネ抜き」を語源に「たぬき」とした説。

せやなあ、せやろうなあ、これくらいのことはどなたでも思いつきますわなあ。

ファッキン・ジャパニーズ!!

しかしですな、この程度ではわたくし、へこたれません。芯が強くできているのです。踏まれるほどに強くなる、麦の苗ともサイヤ人とも例えられるアイアンハートの心の臓を抱えております。たまにはやさしくしてください。

この説の不十分なところはですな、これでは関西におかれましてタヌキそばが天カスをのせた麺類を指すものではないという事実なのです。かなり有名な話ではございますが、大阪国を中心とする関西圏においては、タヌキといえばお揚げの載った麺類を指すそうでございまして。油揚げを「タネ抜き天ぷら」の略とするのはいくらなんでも理屈に合わぬものでしょう。

ではなぜ、「タネ抜き天ぷらそば」に端を発するタヌキそばが関西に伝わって「油揚げをのせたそば」に変容してしまったのか、このタネ明かしをしようではありませんか。マァ、そもそもタヌキそばが関東発祥なのかという点についてツッコまれますと証拠もないのでいささかたじろぐものではありますが、ここはひとつそういうものとしてご理解いただきたい。

油揚げをのせたおそばさんが関東ではキツネと呼ばれますな。おうどんさんでもかまわないのですけれど。これは至極簡単な連想で、おキツネ様の化身足りますお稲荷様といえば、そりゃあ好物はお揚げさんに決まっているわけで、油揚げに寿司飯を詰めた食いモンが「お稲荷さん」と申しますのと同様、油揚げがのっかった麺類がキツネと呼ぶのが自明でありましょう。

ところが、このキツネは関西に行きますっていうと別物に化けてしまう。関東でタヌキそばと呼ばれます揚げ玉だか天カスっていうもんがのっかったのをキツネと申すそうで。どうしてそんな逆さまのアベコベになってしまったのか。

いやはや、まったく面妖な話で。まったくタヌキに化かされたか、キツネにつままれたかという気分にさせられます。

そう、タヌキもキツネも化かすものなのでございます。

まあどちらも野獣、けだものの類でございますから、実際に人様に幻術を仕掛けるような真似はできなかったものと思いますが、どうもおタヌキ様信仰とおキツネ様信仰は地域によって勢力が異なるようで。

日本を左右に分けまして、どうも東はキツネ優勢、西はタヌキが優勢らしいんですな。関東あたりに有名なタヌキの大御所はおりませんが、大阪には芝右衛門狸、四国には阿波狸、隠神刑部なんてのは808匹の眷属を以って人間とも戦をしたのだそうであります。

そんな土地にですな、「タネ抜きの天ぷら」の略としてタヌキそばが上がっていったらどうなるか。これはもう無礼千万、お狸様の御前で頭が高い控えおろうってなもんで、聖徳太子の親書を持った小野妹子が隋皇帝の前で縮み上がったような、そんな無礼な話に違いありません。

だいたい、天ぷらを作った余りカスをのっけただけのもんで追加料金を取ろうなんて了見は、計数能力に優れた大阪町人衆には到底受け入れられなかったのでありましょう。

「ケチな化かしをすんやない。こんなんキツネ畜生なみの商いだわ」

そんな風に蔑まれまして、富士山麓辺りから箱根を越えてやってきた蕎麦屋台たちがなで斬りにされていった次第なのです。「タネ抜き天ぷら」でオプション料金を取るビジネスモデルはそのまま関西では根付かず、天カスは無料で供しているお店が多いようですな。

そうなると扱いに困るのはキツネそばです。キツネの化かしは天カスに決められてしまったものですから、お揚げさんをのっけたそばに対する適切な呼び名がない。そこで注目されましたのが、おタヌキさんの立派な千畳敷。有り体に申しますと、やたらにデカイ金玉袋なのでございます。

「きさんこつ油揚げはホンに立派じゃなのう。キャン玉を抜いた芝右衛門の千畳敷のこつばい」

坂本龍馬か西郷隆盛あたりがきっとこんなことを申しまして、それ以来関西ではお揚げの載ったのをタヌキと称するようになったのでありましょうなあ。

歴史とは実に奇妙奇天烈なものにございます。

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4 thoughts on “タヌキそばは関東、関西でなぜ名前が違うのか

  1. 大阪では「きつね」=「きつねうどん」なので、油揚げののったそばは「きつね(うどん)じゃない」⇒「たぬき」という感じではなかったかと。
    また、揚げ玉ののった麺類は「ハイカラうどん・そば」と呼んでいたりもしますが、これは大阪においては揚げ玉は客に出すようなものではなく、斬新に捉えられた若しくは揶揄する意味で「ハイカラ」と名づけられたという説もあるようです。
    ついでではありますが、京都における「きつね」「たぬき」もまた趣が違います。

    • コメントありがとうございます。
      やはり大阪では揚げ玉の扱いは低いんですね(笑
      京都と大阪で違うのも興味深いです。隣県なのに。。。

  2. 関西では天カスはネギや七味唐辛子と同じく、「タダで好きなだけ入れられる」ようにテーブル上にどかっと置かれているのです。元来タダ同然の天カスを「たぬき」として課金するのは関東だけですよ(笑)

岡崎良徳 にコメントする コメントをキャンセル

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