ゾンビだらけの終末世界でヒーローになる方法―「ワールド・ウォーZ(原作小説)」の感想


「ワールド・ウォーZ」という映画のトレイラーを見ました。

公式サイト:ワールド・ウォーZ(映画)

ブラッド・ピット主演のパニックホラーのようです。ゾンビが大発生して世界を滅ぼすとか、いかにもB級じみててそそりますねえ。タイトルの「Z」は「Zombie」の頭文字の模様。邦訳すれば、「世界ゾンビ大戦」といったところでしょうか。

私の琴線をビシビシかき鳴らしてくれるかんじで、気になったので少し調べてみると、同盟の小説が原作の模様。さっそくKindleストアでぽちりましたよっと。1冊にまとまったペーパーバック版と、上下巻にわかれた文庫版があるようですが、文庫版のほうが安かったのと、そもそも文庫版しかKindle化されていなかったようなのでそちらで購入。

でも、あらすじはペーパーバック版のほうがしっかりしていたのでそちらから引用します。

中国奥地で発生した謎の疫病。それがすべてのはじまりだった。高熱を発し、死亡したのちに甦る死者たち。中央アジア、ブラジル、南アフリカ…疫病は拡散し、やがてアウトブレイクする。アメリカ、ロシア、ドイツ、日本…死者の群れに世界は覆われてゆく。パニックが陸を覆い、海にあふれる。兵士、政治家、実業家、主婦、オタク、スパイ。文明が崩壊し、街が炎に包まれるなか、彼らはこの未曾有の危機をいかに戦ったのか?辛口で鳴るアメリカの出版業界紙「カーカス・レヴューズ」が星つきで絶賛、ニューヨークタイムズ・ベストセラー・リストにランクインしたフルスケールのパニック・スペクタクル。
引用元:WORLD WAR Z [ペーパーバック]

著書は2003年にゾンビ襲来時のサバイバルマニュアル「ゾンビサバイバルガイド」でベストセラーを飛ばしたマックス・ブルックスさんだそうで、本作もそのときに練ったアイデアを小説として発展させ、2006年に発表したものだそうです。どんだけゾンビ好きなんだよ。

んで、読んでみた感想なんですが、映画のトレイラーとはぜんぜん違う印象です。全編をゾンビ禍を生き残った人々へのインタビューとして構成しており、ドキュメンタリー風の装いとなっています。登場人物は引用したあらすじにあるとおり実にさまざま。ヒーローもいれば、混乱に乗じて金を儲けた悪党や、ただ巻き込まれて不幸になった普通の人もいて飽きさせません。

そして、この小説には重大な気付きがあります。それは、もし現実にゾンビ災害が発生し、人類が滅亡しかけたとき、どうすればヒーローとなれるのか。そのヒントが詰まった一冊なのです。

ほら、中学生のときに妄想したでしょう。授業中に校庭を眺めながら、いま正門からゾンビの大群がなだれ込んできたらどうしよう。ゾンビは足が遅いから落ち着いて行動すれば十分に時間があるな。まずは玄関にバリケードを組んで、いや待て、籠城してもいつ助けが来るかわからない。それより包囲が薄いうちに脱出する方がいい。ゾンビは籠城組に気を取られて少数の脱走者には気がつかないかもしれない。迷っている時間があるならすぐに動け! 唖然とする教師を尻目に、私はクラスのマドンナの手を引いて駆け出すのだった。

さて、本作に登場するヒーローは多数いますが、私の印象に残ったのは以下の三人。

  • ゾンビの大群を防ぐために、自爆特攻で山路を爆破したインドの将軍
  • 裏切り者の謗りを恐れず、祖国を活かすために原潜を強奪した中国の艦長
  • 帰還の見込みもないのに、復興に欠かせない人工衛星網の維持のために宇宙に残った宇宙飛行士

あと、アメリカの作品らしく大統領がめちゃくちゃマッチョで勇敢なかんじなんですが、さすがに完璧超人すぎるかんじで気に入らなかったので除外。この本、中国とかロシアとかがやたらひどい目にあったり民主化してたりして、いかにもなアメリカ礼賛思想が通底していて鼻につくんですよね…いや、そこに目をつぶれば一級品のエンタメなんですが。アメリカ大統領とか、完全にケント・クラークで脳内再生されましたもん。

それはともかく、ヒーローとなった3人には2つの共通点があります。

まずは自己犠牲精神ですね。人類のために身を投げ打つ姿勢。これは文句なしにカッコいい。最初に挙げた将軍なんて実際に死んでしまいました。カミカゼ精神はアジアに受け継がれている。

次に、全員平時からそれなりの立場にある人です。まあ、そりゃそうですね。なんでもない一般人が危機に陥ったからといって突然力を発揮できるわけもなく。

巨大な危機が生じた際に、一兵卒の働きなんて大して意味はないわけです。1人が百のゾンビを屠るより、戦略をもって数万、数十万のゾンビを殲滅した方が圧倒的に影響力は大きいわけで、ここから読み取れる教訓は、非常時においてヒーローになりたければ、平時から偉くなっておけという身も蓋もない教訓なのです。平時で勝てないやつは危機においてもやはり勝てない。切なく、過酷な現実です。

とはいえ、本作の中でも限りなく一般人、もしくはそれ以下の状態からヒーローになった人々も存在します。それはなんということかよりにもよって我ら日本人。

ひとりは盲目の老人。広島の原爆で失明し、世をはかなんで放浪し、北海道で庭師に弟子入りして過ごしていた人物です。ゾンビ禍がはじまった際には誰にも迷惑をかけずに死のうと山にこもるのですが、そこで座頭市的戦闘センスに開眼。山の神と交感し、ゾンビを狩り尽くしシャーマニック・ウォリアーへと変貌を遂げるのです。

もうひとりはひきこもりのオタク青年。ゾンビに追われ絶体絶命の危機を迎えますが、そのときに見つけた1本の日本刀によって生き延び、やがて盲目の老人と運命的な邂逅を果たし、無敵のサムライ・ウォリアーとなって我が国の国土をゾンビどもの手から取り戻します。たぶん。

いや、たぶんってのは、直接的な描写がないせいです。はっきり書かれてはいませんが、日本は壊滅寸前に陥り、みんな海外脱出しちゃったらしいんですね。そんな状態でレコンキスタをがんばったのがこの2名のようで、2人がゾンビを狩り尽くした後の安全地帯にだんだん帰国が進んでいるみたいだな、と。

それにしてもアレですね。日本が例外的な人物を除いて脆弱に書かれているのがちょっと切ない。3.11前に書かれた本なので、日本は緊急事態に弱い平和ボケした国だという印象だったんでしょうねえ。もしこの本が3.11以後に書かれていたら、日本の扱いはもっとよくなってたんじゃないかな。

それはともかく、ワールド・ウォーZを読めば、あなたも世界ゾンビ大戦後のヒーローとなれること間違いなしです。いつ訪れるかもわからないゾンビの脅威に備えて、防災グッズと一緒に揃えておきたい一冊ですね。

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