オカルトSF小説「新世界より」がRPGみたいで面白いので感想を書く[ネタバレあり]


「新世界より(貴志祐介)」は2008年1月に発表された作品です。

じわじわと人気が高まったのか、最近になって漫画やテレビアニメにメディアミックス展開されています。

以前から書店の店頭などで見かけてはいたものの、どうもタイトルからして精神世界系の説教くさい話かと思い敬遠していましたが、知人が漫画版をほめていたので読んでみた次第。

いやはや、これは面白い。非常にレベルの高いエンターテイメント作品です。

同じような理由で敬遠している人がいたらもったいないので、ここに感想を書きます。

初読の楽しみを奪うほどのネタバレはないと思いますが、気になる方はご注意を。

まずはamazonに載っているあらすじを引用しておきます。

1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。

うーん、なんか魔界都市新宿シリーズと月刊ムーを合わせたようないかがわしさ。あらすじを変えるだけでももっと売れそうなんですが…。

それはともかく、以下に私の感想を大きく3つに分けて書いていきます。

<目次>
  • 椎名誠っぽい世界観
  • 綿密に練られた破綻のないストーリー展開
  • 映画やゲームのような視覚的演出
  • ハードSFではなくオカルトSF

椎名誠のSFを髣髴とさせる幻想的世界観

私のツボにはまったのがなによりもこのポイントです。

破滅的な戦争で荒廃した世界から再生した集落が舞台なのですが、ある理由で汚染された世界では独特な生態系が発展しています。

住民に使役される異形の「バケネズミ」、七色に輝く軟体巨大げじげじ「ミノシロモドキ」に、炸裂する卵を産む「カヤノスヅクリ」、土中で光り光源にも利用される「ツチボタル」などなど。

架空の生態の描写を重ねて世界観を作り上げていく手法は椎名誠のSF三部作(アドバード、水域、武装島田倉庫)を彷彿とさせました。

私にとって小説とはこの上ない現実逃避の手段なので、こうして現実には存在しない生き物が闊歩する世界観は大好物です。

あるいはこれは恐竜図鑑や怪獣図鑑を読んでわくわくする感覚にも近いかもしれません。

綿密に練られた破綻のないストーリー展開

上中下巻に分かれた長編にも関わらず、物語が緩急に富んだおり最後まで飽きさせません。

それでいて後半のクライマックスに向けて盛り上げていくストーリー運びはお見事。

これこそ職業作家の本領だなと舌を巻きました。

序盤に散りばめられた伏線が終盤で一気に回収されるカタルシスがなんとも心地よいです。

また、キャラクターが自然に動いていて、ストーリーの都合に合わせた突飛な行動をしないのも没入感が高くてすばらしいです。

貴志祐介の作品では他に「天使の囀り」と「クリムゾンの迷宮」を読んだのですが、両作とも登場人物が時折突飛な行動に出るのでそこで白けてしまうという難点がありました。

この作品ではそうした無理が感じられず、作家の成長が伺えます。(何様だ)

映画やゲームのような視覚的演出

「呪力」によって引き起こされる効果はすさまじく、山を崩し竜巻を呼び、大軍を吹き飛ばす様子は爽快の一言。

ロールプレイングゲームや映画の魔法のようで非常に派手で気持ちがいい。

とくに下巻で最強の呪術師ふたりが街に押し寄せた大軍を一掃する描写などはまさに無双状態。

書店で見かけた帯には「映像化困難といわれた作品がついにアニメ化!」みたいな煽りがあったのですが、ぜんぜんそんなことはなくむしろ映像化向き。

呪力の演出の他にも、暗闇の川面に浮かぶ星空や、荒廃した東京など画になるシーンが多いです。

貴志祐介は多数の作品で映像化された経験がありますし、むしろ映像化を意識して描いたのではないかと思います。

ハードSFではなくオカルトSF

「破滅後の世界」「遺伝子改変」「細菌兵器」などなど、SFっぽいキーワードはたくさん散りばめられているものの、ほとんどが「呪力でやった」で片付けられてしまうのでハードSFを期待するとがっかりします。

私も途中まではハードSF的な展開を期待し、呪力にもなんらかの科学的説明がされるのではと思っていたのですが、最後までそんなことはなく、呪力はあくまでも呪力で、X-men的な超能力でした。

そんなわけで、純粋なSF作品というより「オカルトSF」とでも名づけたほうがしっくりします。

また、視覚的演出を「ゲームのような」と例えましたが、ストーリーもRPGのようなところが多々あるので、コアなSF読みや大人の読者は子どもっぽいと感じてしまうかもしれません。

裏返せば、そういう一般受けしやすい面白さがあるからこそメディアミックス展開がされたのだとも言えるでしょう。

最後にいちゃもんをつけましたが、一級のエンターテイメント作品であることは間違いないです。

長い作品ですが最後まで飽きずに読める面白さですので、一読して損はありませんよ。

と布教活動でした。

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